迷った。完璧に迷った。しかも徒歩なのでダメージは大きい。なにしろコースをリカバリするにも歩かないといけないのだ。どこからともなく渡し船のエンジン音が小さく聞こえてくるので、船着き場が近いのは間違いない。しかし、前にも書いたように工場街の中にある施設なので見つけるのが一苦労である。それだけ地域にとけ込んでいるともいえるのだが、ビギナーにはちと厳しい状況である。寒風も強くなって来たようで、ボディーブローのように弱音が蓄積されていくのが分る。よもや大阪市内で遭難することはないとは思うが、工場ばかりで人が少ない土地だけに案外ありえなくもないかもしれない。という具合に逆境において悲観の度を増していくネガな状況であった。きっと中だるみと朝からの疲れが影響したのだろう。
30分ほども彷徨をかさねたあげく、ようやく現在位置と渡船場の位置を特定。結果からいうと、敷島運河の東側をさまよっていたことになる。渡船場は運河の向こう(西側)であり、運河沿いに高さ5mくらいの防潮堤が築かれているので、それがブラインドになっているのである(防潮堤がなくても見えないと思うけど)。ここで私からのアドバイス。緑木検車場方面(東側)からアプローチする場合は運河を渡ることを忘れないようにして欲しい。前半の3本を順調にこなしてきていたので、今にして思えば「大阪市営渡船は与しやすし」というような気持ちの中だるみが発生したに違いない。運河みたいな分かりやすい目印を見逃すとは、「自走家」としては恥ずべき状況である。
人がいない。360度ぐるりと見回しても誰もいない。車すら走っていない。工場設備の音はするので、ゴーストタウンでないことは分る。田舎の風景であれば人を見かけずとも違和感はないのだが、街中でこの状況だと何かしら不安になってしまうのだ。それもこれも工場街の中にある渡船場なのでいたしかたないことだ。木津川渡船場のダイヤにもその傾向が如実に表れている。朝の6〜7時台と夕方の17〜18時台は10分間隔で運行されているが、日中は45分間隔にまで広がってしまうのだ。私が乗船(南→北)したのは15時の便。まさにまさに45分間隔の頃である。おかげで30分ちかく寒風対策を思案する余裕ができてしまった。同じ大阪市内でも、路線の設置地区の事情が反映されているのは実に興味深いと感じた。
寒いは迷うわ暇だわで気力が微弱になっていくのが分る。とりあえずルーチンの渡船場撮影と調査を念入りに行うことで時間つぶしをはかる。木津川渡船場の待合室は一見すると公園のトイレと見まがうような外観だ。造りはコンクリートなので、おそらく8経路の中で最も堅牢だと思われる。しかし、大きな窓が穿たれているので、寒風吹きすさぶこの日は寒かった。今にして思えば、前にある電話ボックスに入っていれば良かったと思う。どうやら気力のみならず思考力も低下していたに違いない。やれやれ。
他の7経路は大阪市建設局の管轄だが、この木津川渡船場は港湾局の管轄である。だからといって特に違いという違いは無かったように思う。微妙に掲示物の内容が違ったように思うが、顕著な違いはペンキの色味が少し違ったことくらいだろうか。大阪市営渡し船のイメージカラーは2色あるようで、船舶はオレンジ(天保山はライトブルー)、渡船場設備はライトブルーで統一されている。建設局管轄のライトブルーは少し濃いめで、港湾局のそれは少し明るめだったように思う。
待ち船時間中に渡船場の前を貨物船が頻々と往来する。個人的に気に入ったのは、タグボートに曳かれたバージである。理由は「風の谷のナウシカ」なのだが、これに関して詳しい説明は割愛する。対岸にある中山鉄工所の岸壁には大きな貨物船が横付けされている。なにやら製品を積み込んでいるようだ。生活道路としての渡し船もあれば、通勤道路としての渡し船もあるのだ。そんなことを考えていると対岸で発船の動きが始まった。
ここの岸壁間距離は約240mもあるので、落合上下のようなS時機動を見ることはできない。河の流れに対して角度をつけつつ直進するイメージである。距離としてはたいしたことないようだが、船で渡るとなると思ったより時間がかかる。動画撮影で待ちかまえているので、わりとじりじりしてしまう。こちらの乗客は私1人だが、向こうからは中学生男子3人組が渡ってきた。
待合室は寒かったけれど、渡し船(松丸)は暖かい。それもそのはずで樹脂製のまどがはめ込まれているからだ。見たところ着脱は容易そうなので、夏場になると外されるのかもしれない。こういう細やかな気遣いは素晴らしい。個人的には女性職員さんのアイデアではないかと想像する。
【 ムービー 木津川渡船場 運行編 71秒 ボリュームに注意 】
下船してタラップを歩いていると突如「ブォー」と霧笛が鳴り響いた。原因は先ほどの中学生男子3人組。立ち入り禁止の柵を越えて岸壁をウロウロしていたのを見とがめて職員さんが注意したというわけ。霧笛だけではなく、スピーカーも装備されているようで、生粋の大阪弁で注意なさっていた。岸壁は100%護岸工事が施されているので落ちた場合に手がかりが無く危険だ。船が運航されているくらいだから水深もあり、足もつかないだろう。よほど落ち着いた対応を取らないと溺死するのは確実だろう。後悔先に立たずの精神でくれぐれも気をつけましょう。